産業医とは、事業場において労働者の健康管理などについて、専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。労働安全衛生法により、常時50名以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任が義務付けられています。1,000名未満の事業場の場合は、専属の産業医でなく、非常勤で月に1回の訪問でも構いません。
常時1,000名以上の労働者を使用する事業場、あるいは特定の業務に常時500名以上の労働者が従事する事業場の場合、常勤で専属の産業医が必要です。
産業医の主な業務
産業医の主な業務は以下の通りになります。
②衛生講話
③職場巡視
④健康診断結果のチェック
⑤健康相談
⑥休職面談
⑦復職面談
⑧ストレスチェックの実施者
⑨高ストレス者面接指導
⑩長時間労働者面接指導
労働安全衛生規則やじん肺法施行規則などの一部改正
産業医は①~⑩の業務の中で必要に応じ書類作成や押印を行います。特に、④定期健康診断と⑧ストレスチェックにおいては、会社が管轄の労働基準監督署に提出する「定期健康診断結果報告書」「ストレスチェック報告書」に対して押印をしなければなりませんでした。しかし、2020年7月31日、厚生労働省より、労働安全衛生規則やじん肺法施行規則などの一部改正が以下のとおり公表されました。
・「定期健康診断結果報告書」「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」などについて「産業医の押印、電子署名」を不要とする。
改正に伴い、2020年8月28日からは労基署に提出する「健康診断個人票」「ストレスチェック報告書」「定期健康診断結果報告書」などの様式から産業医(医師)の押印欄がなくなります(移行措置として、旧様式も当面の間は使用が可能です)。
産業医の氏名記入欄は新様式にも引き継がれますが、改正後は産業医の氏名記入欄は企業担当者が記載しても構いません。また、医師から健康診断個人票に関する意見をWEBで確認し、企業担当者が代筆することも可能になりました。
その他にも、電離放射線健康診断結果報告書(放射線業務をしており、管理区域に立ち入る労働者に対して行う半年に一度の特殊健康診断に関する報告書)、労働者死傷病報告(労働中に従業員が、負傷または中毒や疾病にかかったことにより、死亡もしくは休業を要した場合に提出)、総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医専任報告の押印が不要となりました。
改正の背景「なぜ押印が不要となったのか?」
近年、契約書など各方面で電子化の流れが顕著となり、産業保健の分野でもそれは例外ではありません。厚生労働省は、定期健康診断結果報告書の電子申請や、健康診断個人票の電磁的記録の活用による保存を推し進めています。その流れを受け、押印も電子署名へと変遷していくものと思われていました。
しかし、電子署名を使用する場合、あらかじめ認証局への申請が必要であり、それが各方面に十分に浸透しない原因となっていました。そこで現状を改善し、よりスムーズな普及を試みようとし実現したのが、労働安全衛生関係法令の改正に伴う産業医、医師の押印や電子署名の廃止です。
産業医の印鑑廃止まとめ
この記事では、「法改正により産業医などの押印が不要になった」ことについて説明しました。改正の背景で触れましたが、あくまで電子化の流れを受けての変更であり、企業側の安全配慮義務の重さに変化がある訳ではありません。企業の責任が軽減された訳でもありません。そのため、今後も引き続き、会社にとって必要な対応を丁寧に行っていくようにして下さい。