2021年3月に入り「障害者雇用の法定雇用率が引き上げられた」というニュースを見た方も多いのではないでしょうか。企業の人事総務担当の方なら既知の内容だと思いますが、そもそも「障害者雇用」「法定雇用率」は一体どういうものなのでしょうか?今回は障害者雇用の基本的な知識についてご説明します。
障害者雇用促進法とは?
障害者の雇用促進を図るため「障害者雇用促進法」という法律が施行されています。そこには、事業主への義務や障害者本人への公的支援措置などが規定されています。そのため、企業は一定の割合で障害者を雇用しなければなりません。
また、障害のある人が働く機会を得やすくなるよう「障害者雇用枠」を設けるなど、就業に対する不安を軽減するための措置が定められています。雇用義務を履行しない企業は、行政指導が入り、罰金などが科されます。
法定雇用率とは?
障害者雇用促進法では、障害者が地域の一員として共に生活できる「共生社会」の実現に向け、一定の割合で障害者を雇用しなければならないと定められています。
この一定の割合のことを「法定雇用率(障害者雇用率)」と言います。2018年4月には精神障害者の雇用が組み込まれ、下記のように法定雇用率が引き上げられました。
・国、地方公共団体:2.3%⇒2.5%
・都道府県等の教育委員会:2.2%⇒2.4%
そして、2021年3月から法定雇用率はさらに全て0.1%引き上げられています。
2018年の変更では民間企業の場合、従業員(正社員)45.5人以上で障害者を1名雇用する必要があったのですが、今回の変更により43.5人以上で1名雇用と条件が厳しくなりました。
※従業員(正社員)43.5人以上の企業は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。雇用状況の報告を怠った場合や、虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金が科せられます。
障害者雇用の条件
障害者雇用促進法では、以下の障害者を「対象障害者」としています。
②知的障害者
③精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の所持者に限る)
雇用義務の対象となるかは、「手帳の交付の有無」「知的障害者判定機関の判定書」がポイントになります。
※手帳の交付がない場合は、法定雇用率に算定することはできません。
※特例子会社(障害者の雇用に特別な配慮をした子会社)のある企業は、子会社に雇用されている労働者を親会社で雇用されているものとみなし、法定雇用率に算定することができます。
障害者雇用のメリット(調整金・助成金)
法定雇用率を超えて障害者を雇用した企業には、調整金・報奨金が支給されます。
(対象企業)常時雇用している労働者数が100人を超える企業
(内容)障害者雇用率(2.3%)を超えて障害者を雇用している場合は、雇用率以上の障害者数に応じて1人につき月額27,000円の障害者雇用調整金が支給されます。
②特定求職者雇用開発助成金
(対象企業)障害者雇用の経験がない中小企業、労働者数(正社員)43.5~300人の中小企業
(内容)障害者を初めて雇用し、雇入れによって法定雇用率を達成する場合、助成金120万円が支給されます。
③トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金は、障害者の適性や業務遂行可能性を見極め、相互理解を促進することで、早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としています。
以下の2つのコースがあります。
障害者トライアル
(対象企業)
職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な障害者について、ハローワークや職業紹介事業者等の紹介により、一定期間試行雇用する企業
(内容)
・精神障害者の場合→1人につき月額最大8万円を3カ月
・障害者トライアル雇用求人を事前にハローワーク等に提出し、これらの紹介によって原則3カ月の有期雇用で雇い入れた障害者の場合→月額最大4万円を3ヵ月(最長6カ月間)
・上記以外の場合→月額最大4万円(最長3ヵ月間)
障害者短時間トライアル
(対象企業)
障害者を継続雇用することを目的に、一定の期間を定めて試験的に雇用する企業
(内容)
雇入れ時の週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障害者の職場適応状況や体調等に応じて、同期間中にこれを20時間以上とすることを目指します。→支給額は、対象者1人につき月額最大4万円(最長12ヵ月間)です。
障害者雇用安定助成金は障害の特性に応じた雇用管理・雇用形態の見直しや、柔軟な働き方の工夫等の措置を講じる企業に対して助成するもので、障害者の雇用を促進するとともに、職場定着を図ることを目的としています。
障害者雇用安定助成金には、以下の2つのコースがあります。
障害者職場適応援助
(対象企業)
職場適応や定着に課題を抱える障害者に対して、ジョブコーチによる支援を実施する企業
障害者職場定着支援
(対象企業)
障害の特性に応じた雇用管理・雇用形態の見直しや、柔軟な働き方の工夫をした企業
障害者雇用に関するデメリット(納付金=罰金)
常時使用する労働者が100人を超える企業は、障害者雇用率を満たしていない場合、不足する人数に応じて、1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金を納付しなければなりません。
ただし、常時使用する労働者が100人を超え200人以下の企業については、障害者雇用納付金の減額特例が適用され、不足する障害者1人あたりの納付金は40,000円に減額されます(2020年3月31日まで適用)。
障害者雇用率が未達成でも納付金を払っていれば大丈夫なのか?実は、未達成が続くと、労働局からの指導が入ります。そして、指導後も改善策を講じないままでいると、企業名が公表されてしまいます。企業名が公表されることは企業にとって大きなイメージダウンとなります。
障害者雇用まとめ
障害者雇用についてご理解頂けたでしょうか?今後も障害者雇用促進法に掲げられている障害者が地域の一員として共に生活できる「共生社会」の実現に向け、法定雇用率は引き上げられていくでしょう。
確かに障害者雇用には能力や適応、継続的な勤務など簡単にはいかない問題もあります。企業内だけでなくジョブコーチや助成金制度を上手く活用しつつ障害者雇用を推進してみましょう!