健康経営優良法人という制度をご存じでしょうか。文字通り企業の健康経営に関する取り組みなのですが、もしかすると健康経営優良法人の大企業版「ホワイト500」の方が通りがいいかもしれません。
健康経営優良法人とは?
2017年から経産省のヘルスケア産業政策のひとつとして実施されている認定制度です。各企業の健康経営に関する取り組みを客観的に評価します。経産省のホームページには、以下のように記載されています。
「健康経営優良法人認定制度とは、地域の健康課題に即した取組や日本健康会議が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としています。」
※健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)より
健康経営銘柄とは違うの?
健康経営と言えば、先に「健康経営銘柄」が開始されましたが、それとは異なります。健康経営銘柄は、東証上場企業で且つ原則1業種1社と選定条件がかなり厳しいものとなっています。健康経営優良法人は、大規模法人部門と中小規模法人部門に分けられており、中小企業にも門戸が広げられています。申請区分は、業種ごとに従業員数または資本金額等で分けられています。
ホワイト500とは?
簡単に言うと健康経営優良法人の大企業版です。これまで大規模法人部門全体を「ホワイト500」と呼んでいましたが、2020年からは大規模法人部門の中で、上位500法人を「ホワイト500」として認定することになりました。
※ホワイト500(大規模法人部門)は、従業員数によって分けられます。
・小売業→51人以上
・サービス業→101人以上
・製造業その他→301人以上
(業種は中小企業基本法上の業種です。)
ブライト500とは?
これまで、健康経営優良法人の中小企業版では、特にTOP500などの公表を行っていませんでした。しかし、2021年から「健康経営優良法人の中でも優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として優良な上位500法人が「ブライト500」として認定されることになりました。
健康経営優良法人2021の評価項目
評価項目は大企業版と中小企業版では少し異なります。大企業版だけに記載のある箇所は赤字、中小企業版だけに記載がある箇所は青字にしてあります。
1.経営理念(経営者の自覚)
→健康宣言の社内外への発信(アニュアルレポートや統合報告書等での発信)
→①トップランナーとして健康経営の普及に取り組んでいること
2.組織体制
・経営層の体制→健康づくり責任者が役員以上(役員以上との規定は大企業版のみ)
・保険者との連携→健保等保険者と連携
・(求めに応じて)40歳以上の従業員の健診データの提供
3.制度・施策の実行
【従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討】
・対策の検討→健康課題に基づいた具体的目標の設定
・健康課題の把握→②定期健診受診率(実質100%)
→③受診勧奨の取り組み
→④50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施
【健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント】
・ヘルスリテラシーの向上→⑤管理職又は従業員に対する教育機会の設定
※「従業員の健康保持・増進やメンタルヘルスに関する教育」については参加率(実施率)を測っていること
・ワークライフバランスの推進→⑥適切な働き方実現に向けた取り組み
・職場の活性化→⑦コミュニケ-ションの促進に向けた取り組み
・病気の治療と仕事の両立支援→⑧病気の治療と仕事の両立の促進に向けた取り組み(⑮以外)
【従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策】
・保健指導→⑨保健指導の実施及び特定保健指導実施機会の提供に関する取り組み
※「生活習慣病予備群者への特定保健指導以外の保健指導」については参加率(実施率)を測っていること
・健康増進・生活習慣病予防対策→⑩食生活の改善に向けた取り組み
→⑪運動機会の増進に向けた取り組み
→⑫女性の健康保持・増進に向けた取り組み
・感染症予防対策→⑬従業員の感染症予防に向けた取り組み
・過重労働対策→⑭長時間労働者への対応に関する取り組み
・メンタルヘルス対策→⑮メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み
・受動喫煙対策→受動喫煙対策に関する取り組み
【取り組みの質の確保】
・専門資格者の関与→産業医又は保健師が健康保持・増進の立案・検討に関与
4.評価・改善
・取組の効果検証→健康保持・増進を目的とした導入施策への効果検証を実施
→⑯健康経営の評価・改善に関する取り組み
5.法令遵守・リスクマネジメント
→定期健診の実施、健保等保険者による特定健康診査・特定保健指導の実施、50人以上の事業場におけるストレスチェックの実施、従業員の健康管理に関連する法令について重大な違反をしていないこと、など。
健康経営優良法人2021の認定要件
上に書いた評価項目のうち、ホワイト500は
1.経営理念、2.組織体制、3.のうち対策の検討・受動喫煙対策・専門資格者の関与、4.評価・改善、5.法令遵守・リスクマネジメントは必須です。また、②~⑮のうち12項目以上を満たす必要があります。
大企業版は、ホワイト500とほぼ同じです。
①に関して必須ではなく、①~⑮のうち12項目以上を満たすことで基準をクリアします。
中小企業版は、1.経営理念、2.組織体制、3.のうち受動喫煙対策、5.法令遵守・リスクマネジメントは必須です。あとは少し複雑で、②~④のうち少なくとも1項目、⑤~⑧のうち少なくとも1項目、⑧~⑮のうち3項目以上≪且つ≫②~⑯のうち6項目以上を満たすことで基準をクリアします。
健康経営優良法人に認定されるメリットは?
これまで書いたように健康経営優良法人になるのは簡単なことではありません。それでは、認定を受けることでどんなメリットがあるのでしょうか?
① 企業価値や社会的評価の向上
健康経営優良法人はとても認知度と信用の高い制度です。なので、認定を受けると、「従業員の健康増進に積極的に取り組んでいる」という評価を受けます。
・株価の上昇が期待できる
投資家は、企業イメージをとても大切にします。健康経営優良法人の認定を受けることで「人を大切にする企業」と認識してもらえるため、これまでに比べ投資の対象に挙がることになります。社会貢献や広告戦略も合わせて行うことで、さらに投資家の注目が集まれば、最終的に株価の上昇に繋がる可能性もあります。
・優秀な人材を確保できる
今は就活生や転職者が企業を選ぶ時代です。条件として、給料の高さや休みの多さも大きなポイントとなります。しかし、働きがいや安定性、ホワイト度合いなどもそれらと同じくらい重要視されています。そのため、健康経営に力を入れている証明=健康経営優良法人の認定を受けていることは大きな武器となります。
② 企業内の活性化
自分の勤める会社が自分たち従業員に“優しい”会社なのか。従業員は敏感に感じています。そのため、企業が従業員の働きやすさを考え努力することは、従業員が安心して働くことに繋がります。従業員が愛社精神を持って安心して働ける環境は、組織を活性化させ、生産性の向上にも繋がります。
・企業のブランド価値向上による販売力の向上
同じようなサービスや商品がある場合、消費者は企業イメージやブランド力で購買を決定することがあります。企業イメージやブランド力は一朝一夕に変化するものではありませんが、健康経営優良法人の取得や社会貢献活動などが少しずつ企業のイメージ=ブランド力を形作ります。CMで人気女優を起用することは一番手っ取り早くブランド力を得ることができますが、企業自体の地道な努力もとても大切です。
健康経営優良法人まとめ
健康経営優良法人についてご理解頂けたでしょうか。本当のところ健康経営優良法人の認定を受けた企業の全ての事業場、全ての部署が“ホワイト”なんてことはあり得ません。しかし、企業全体として健康経営に取り組んでいることは、取り組んでいない企業に比べて大きな影響を内外にもたらします。
選ばれる企業、ずっと生き残っていく企業を目指すためにも、積極的に健康経営優良法人の認定を目指しましょう!